第3部:予測シナリオ~フェーズ3の世界~
ここからは、フェーズ3(2027-2028年頃)での実現が予測した(期待したい)具体的な3つの機能を紹介します。
予測1:自然言語によるデータ基盤設計
実現する変化
ビジネスユーザーが自然言語で要件を伝えると、AIがデータアーキテクチャを自動提案する世界。
具体的には
「顧客の購買履歴を週1回月曜の朝に分析してレポートにしたい」という要望に対する対応が数十分で完了するようになると思います。
- 必要なデータソースの特定
- パイプライン設計の提案
- 最適なデータモデルの推薦
- コストとパフォーマンスの試算
データエンジニアの役割の変化
従来は「要件を聞いて、数日〜数週間かけて設計・実装」でした。
未来では「AIの提案をレビューし、ビジネスロジックの妥当性を検証する」という監督・承認の役割にシフトします。
実現可能性の根拠
Cortex Analystは既に自然言語からSQLを生成でき、Snowflake CopilotによるDDL/DMLサポートも実現済です。これらを統合すれば、技術的には実現可能です。
とはいえ、すべてのコンテキストをSnowflakeに入れることは難しい部分もあるため、完全な自律化には至らず、データエンジニアの判断が必要な領域は残り続けるでしょう。
予測2:自律進化するデータモデル
実現する変化
データ基盤が、ワークロードの変化を学習し、自らデータモデルを進化させる世界。
具体的には
従来は人間が定期的に「このクエリパターンが増えてきたから、マテリアライズドビューを作ろう」と判断していました。
未来では、AIがクエリパターンの変化を検知し、対応を自動化してくれます。
- 最適化の提案(MVの自動生成など)
- コスト削減効果の試算
- 実装後の効果検証
- 効果が薄い場合の自動ロールバック
革新的な意味
これは「静的なデータモデル」から「ビジネスの変化に追従して進化し続ける動的アーキテクチャ」への転換を意味します。
データエンジニアは、「日々の最適化作業」から解放され、「中長期のデータ戦略」に集中できるようになります。
予測3:セマンティックレイヤーの自動構築
実現する変化
組織内の「ビジネス用語」と「データ」が自動的にマッピングされ、誰もがデータを自然に扱える世界。
具体的には
「去年の第4四半期の売上トップ10商品は?」という質問に対して、
- 「売上」「四半期」「商品」という用語を自動解釈
- 組織固有の定義(会計年度など)を自動適用
- 一貫した回答を生成
実現可能性の根拠
ここまでは26年度中にはできるでしょう。
さらに、この定義は、Tableau、Power BI、Lookerなど全てのツールで統一され、「ツールによって数字が違う」という問題から解放されるようになります。
Open Semantic Interface(OSI)が2025年に標準化され、Snowflake Horizon Catalogでメタデータ管理が既に提供されています。これらの統合により、2026-2027年頃には実現できるでしょう。
組織への影響
データエンジニアは「用語の通訳者」から解放され、より戦略的な価値創造に時間を使えるます。
また、さらにデータ基盤に連携される前の上流のデータモデリングが重要になってきます。
すなわち、データエンジニアの領域は、データ基盤ではなく、その組織、企業、ビジネスにおけるデータアーキテクチャやデータモデリング全般を司る存在になっていきます。
それはすなわち、事業におけるデータエンジニアの重要性がさらに増すことになります。
このフェーズで実現する世界
データエンジニアの新しい役割
従来:「データを整備する人」
2027年:「データ戦略を描く人」
具体的には:
- ビジネスビジョンをAIに伝える「トランスレーター」
- AIの判断を評価・承認する「ストラテジスト」
- データで新しいビジネス価値を創造する「イノベーター」
以下は、自律化が理想的に進んだ場合の一例です。
実際には、組織の成熟度や技術的制約により、この状態に到達するまでにはさらに時間がかかる可能性があります。
ですが、あと数年あれば、このような世界観を実現する企業が誕生し始めるように思います。
データエンジニアの1週間(2027-2028年のイメージ)
運用作業(約20%):
- AIの自律最適化提案のレビューと承認
- 例外ケースへの対応
戦略業務(約80%):
- ビジネス部門との対話と新規要件の整理
- 新技術の検証とビジネス適用可能性評価
- データガバナンス体制の構築と運用
- 経営層へのデータ戦略提案
パーセンテージはイメージを表したもので、従来の「運用中心、戦略少々」の業務ウェイトが逆転していきます。
この運用から戦略へのシフトは、データエンジニアがコストセンターではなく、プロフィットセンターへのシフトを行うことを指し示しています。
データは21世紀の石油という言葉がありますが、原油のままではビジネスはドライブしません。
それらは精錬され、加工され、プロダクトになることで、初めて価値を生みます。
このプロダクトを生む工程を管理するヒトと見れば、コストセンターです。
一方で、プロダクト自体を企画し、それを実際に生み出すプロセスをマネジメントするヒトと見れば、それはプロフィットセンターと言えるでしょう。
データエンジニアの価値の変化:
従来:「技術力」で評価される
2027年:「ビジネスインパクト」で評価される
- 「何件のパイプラインを作ったか」→「どれだけ売上に貢献したか」
- 「障害をゼロにしたか」→「新しいビジネスを創出したか」
- 「コストを削減したか」→「データで競争優位を築いたか」
Snowflakeが最終的に問いかけること:
君はデータで世界を変えるか?それとも、ただ管理するだけか?
私たちは、こう答えると思います。
データでビジネスを、世界を変えたい!
長期戦略(2028年以降):データストラテジストへの進化
ビジョン:「データの番人」から「ビジネスの創造者」へ
2028年、データエンジニアという職種は、根本から変わります。
従来の役割:
- データ基盤の構築・運用
- パフォーマンス最適化
- 障害対応
2028年以降の役割:
- ビジネス戦略へのデータ活用提案
- AIエージェントとの協働による価値創造
- データを使った新規事業の企画・推進
この変化は、データエンジニアの地位向上を意味します。
新しいキャリアの可能性
私は、『データエンジニアは裏方の仕事』だと思っていました。しかし、本部長として経営会議に参加するようになり、データを見て経営戦略や対策を議論する経営陣、本部長陣の姿や新しいデータを生むための様々なアプローチやプロダクト戦略を見て、「データエンジニアは経営と伴走する存在」であるべきと認識が変わりました。
そのような中で、データエンジニアについて、3つのキャリアパターンを考察してみました。
パターンA:データビジョナリー
役割:データを活用した未来のビジネスをデザインする
主な仕事内容
- 経営層との対話によるデータ戦略立案
- データを活用した新規事業の企画
- 競合優位性につながるデータ資産の発見と活用
求められるスキル
- ビジネス戦略の理解
- データから価値を見出す洞察力
- 経営層・ビジネス部門とのコミュニケーション力
パターンB:AIオーケストレーター
役割:複数のAIエージェントを統括し、データ基盤全体を最適化
主な仕事内容
- Snowflake Optima、Adaptive Warehouse、CortexなどのAIエージェント群の判断を監督
- 異常ケース、例外ケースへの対応
- AIの判断ロジックの改善提案
求められるスキル
- AI/機械学習の基礎理解
- データアーキテクチャの深い知識
- 異常検知・分析能力
- システム全体の統合的理解
パターンC:データプロダクトマネージャー
役割:データを「プロダクト」として捉え、社内外に提供
主な仕事内容
- データプロダクトの企画・開発・運用
- Data as a Serviceの推進
- データマーケットプレイスの運営
求められるスキル
- プロダクトマネジメント
- ユーザー体験設計
- ビジネスモデル構築
- マーケティング・セールススキル
推奨されるチーム構成(2028年)
データ戦略チーム(10名の場合)
データビジョナリー:2名
└─ ビジネス戦略立案、新規事業企画
AIオーケストレーター:3名
└─ データ基盤全体の統括、例外対応
データプロダクトマネージャー:2名
└─ 社内外向けデータプロダクトの運営
データアナリスト:2名
└─ ビジネス分析、ダッシュボード構築
プラットフォームアーキテクト:1名
└─ 技術的な深い知識、新技術検証
(従来のインフラ運用・パフォーマンスチューニング専任者:0名)
最も重要なマインドセット
問い:自律化・自動化で仕事が奪われる?
答え:いいえ、仕事が「格上げ」されるのです。
従来:「このクエリが遅いから最適化して」→ 数日かかる作業
2026年:AIが自律最適化 → その時間で新規ビジネス企画
従来:「パイプラインが壊れた」→ 半日かけて調査・修正
2027年:AIが自動修復 → その時間でデータ戦略立案
従来:障害対応に追われて、戦略を考える余裕がない
2028年:AIに任せて、経営層と未来を議論できる
重要な誤解の解消
「自律化・自動化でデータエンジニアが不要になる」という主張は誤りです。
自律化は「職種の消滅」ではなく「職種の進化」をもたらします。
データエンジニアは消えません。より戦略的で、より価値の高い仕事をするようになるのです。
データエンジニアの価値
従来:「技術力」× 「実装スピード」
2028年:「ビジネス理解」× 「AIとの協働力」× 「創造性」
自律化は脅威ではなく、あなたをルーティンワークから解放し、本当にやりたいことに集中させてくれる味方になっていきます。
自律化の限界と人間の役割
ただし、自律化には限界があります。
AIが現時点では判断できない領域
- ビジネスコンテキストの深い理解
- データ品質の判断
- ステークホルダー間の利害調整
- 倫理的・法的な判断
- セキュリティリスク
- 創造的な問題解決
これらは、2028年以降も人間の領域として残り続けるでしょう。データエンジニアの価値は消えるのではなく、データに関する多方面の領域へ、より高度で創造的な領域にシフトするのです。
Snowflakeが、Snowflake World Tour Tokyoでの基調講演で伝えた、3つのメッセージワードを曲解するなら、
Snowflakeを、「信頼(Trusted)」 し、「複雑な問題から解放(Easy)」 され、「領域を超えてつながれ(Connected)」、そして世界を変えろ!ということでしょうか。
おわりに
私は長年、データエンジニアとして働いてきました。そして、ずっとこう思っていました。
「パフォーマンスチューニングも大事。障害対応も大事。データマネジメントも大事。でも、本当にやりたいのは、データでビジネスを、世の中を変えることのはず。」
Snowflakeが「Simplicity」を掲げ、あらゆる複雑性を隠蔽しようとしているのは、私たちに 「本当に大事なことに集中してほしい」 というメッセージだと感じています。
私は非常に楽観主義で、変化を好むタイプです。良くも悪くも空想主義で突拍子もないことを思いつき、周りを混乱させることも度々です。
そんな私が書いた、これらの時間軸は、あくまで一つの推測です。実際のリリース時期は、技術的課題や市場状況により前後する可能性がありますが、重要なのは『いつ』ではなく『方向性』です。
特にAIの進化は著しく、我々自身の生産性向上を感じる以上に、メガプラットフォーマーの開発生産性はさらに押し上げていると思います。
それはすなわち、予測可能な未来は実現できる世界であり、それは予測以上の速度でやってくるだと考えています。
この記事で描いた未来
Snowflakeの出す機能は、彼らが描くデータエンジニアの将来像からの逆算された機能を提供していると考えています。
特に今年はその傾向が強まったように思います。
つまり、それはデータエンジニアリングの新時代の幕開けです。
フェーズ1(〜2026年):
パフォーマンスチューニングの自律化→ 技術的な最適化作業からの解放
フェーズ2(2026-2027年):
運用管理の自律化→ データマネジメント業務の最小化
フェーズ3(2027-2028年):
データ戦略の自律化→ ビジネス要件から自動でデータ基盤が構築される世界
そして最終的に到達するのは、
データエンジニアが「守り」から完全に解放され、「攻め」に専念できる世界です。
もちろん、この未来予想が全く外れてしまうことも十分考えられますが、このような仮説(ベクトル)を持つことで様々な思考が一気に深まることにつながります。
また予想が外れたら外れたで、こんな機能が欲しいんだ!!とSnowflake社にたくさん機能要求をぶつけたいと思います!
この記事を読んでくれたあなたへ
もしあなたが、「自律化で自分の仕事がなくなるのでは」と不安に思っているなら。この記事が、少しでも希望になれば嬉しいです。
またあなたが、日々の運用やチューニングに追われて、「自分が本当にやりたいことをできていない」と感じているなら。
自律化は敵じゃない。味方である と考えて欲しいと思います。
私もそうですが、よりビジネスに貢献するために、重要ではあるけれど、限られた時間の中で、最大限の価値を生み出すために、AIに任せる領域が増えてきたと思います。
データで世界を変える。
データでビジネスを創る。
データで誰かを幸せにする。
そのために、私たちには時間が必要です。Snowflakeは、その時間をくれようとしています。
最後は、私からの問いかけとなります。
データエンジニアはより強く輝きます!一緒に未来へチャレンジしましょう!
最後の最後に:Snowflakeへの期待
Snowflake社の皆さん、もしこの記事を読んでくれているなら、一つだけお願いがあります。
Adaptive Warehouseのパブリックプレビューを早く!
(弊社、ずっと待ってます!)
長文を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
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