Sora Unity SDK は WebRTC SFU Sora の Unity クライアントです。
Sora Unity SDK は NVIDIA VIDEO CODEC SDK を使ったエンコードとデコードに対応していて、2020.1 (2/27 リリース) でエンコードに対応して、2020.2 (4/14 リリース)でデコードに対応しました。
この記事では、2020.2 でリリースされた、NVIDIA VIDEO CODEC SDK のデコーダ(NVDEC)で具体的にどんなことをしたのかについて書きます。
全体のコードは以下の PR にあります。
C++ よりはビルド寄りの話です。
デコーダを実装する
NVDEC を使ったデコーダを書くのは、そんなに難しくないです。難しくないというか、めちゃめちゃ簡単です。
NVIDIA VIDEO CODEC SDK はサンプルに NvDecoder.cpp というのを用意してくれています。
これを使って(ライセンスの確認は忘れずに)、以下のように書けばデコードが出来ます。
class NvDecoderCuda {
public:
// 初期化
void Init() {
cuInit(0);
cuDeviceGet(&cu_device_, 0);
cuCtxCreate(&cu_context_, 0, cu_device_);
decoder_.reset(new NvDecoder(cu_context_, false, cudaVideoCodec_H264));
}
// デコード
void Decode(const uint8_t* ptr, int size, uint8_t**& frames, int& frame_count) {
decoder_->Decode(ptr, size, &frames, &frame_count);
}
private:
CUdevice cu_device_;
CUcontext cu_context_;
std::unique_ptr<NvDecoder> decoder_;
};
これであとは Decode()
関数にエンコードされたフレームデータへのポインタを渡せばデコードされたデータが frames
に設定されます。
なおデコードしたデータは NV12 形式なので、必要に応じて ARGB8888 などに変換してやる必要があります。
CUDA を使ったビルドに対応する
NVDEC を利用するには CUDA 環境が必須です。さりげなく上記のコードでも CUDA を初期化しています。
そして CUDA のソースコードは nvcc
コンパイラでコンパイルしてやる必要があるため、ビルド環境に CUDA を使ったビルドを含めてやる必要があります。
幸いなことに、CMake はバージョン 3.8 以上で enable_language(CUDA)
に対応しています。これを使うと nvcc
コンパイラを自動で探してきてコンパイルしてくれるようになります。
enable_language(CUDA)
set_source_files_properties(
NvCodec/NvCodec/NvDecoder/NvDecoder.cpp
src/hwenc_nvcodec/nvcodec_video_decoder_cuda.cpp
PROPERTIES
# ファイル拡張子は .cpp だが C++ コンパイラではなく CUDA コンパイラを利用する
LANGUAGE CUDA
CUDA_SEPARABLE_COMPILATION ON
)
こんな風に書けば、これらのソースコードを nvcc
でコンパイルしてリンクして実行出来るようになります。
CUDA と WebRTC を混ぜない
CUDA を扱う時にはちょっと気をつける点があって、それは CUDA と WebRTC を混ぜてはいけないということです。
つまり CUDA のソースを書く時に WebRTC の関数を一切使ってはいけないし #include
してもいけないということです。
実際に WebRTC のソースコードを #include
してみるとコンパイルエラーになります。詳細は見ていないですが、多分コンパイラごとの分岐で変な場所に行ってエラーになっているんじゃないかと思います。
なので CUDA を利用する処理は別の .cpp ファイルにした上で、CUDA 側は WebRTC を含むヘッダーファイルを一切 #include
してはいけません。
実際今回の対応では webrtc::VideoDecoder
を実装した nvcodec_video_decoder.cpp
ファイルと、その内部で CUDA を使ったデコードのみを対応する nvcodec_video_decoder_cuda.cpp
に分けています。
これで無事ビルドが出来るようになって、いい感じに Windows で NVDEC が動くようになりました。
GitHub Action に対応する
Sora Unity SDK は GitHub Actions で CI を行ったりリリースを作ったり出来るようになっています。
なのでこの CUDA を使ったビルドも GitHub Actions でビルドが出来るのが望ましいでしょう。
残念なことに、上記の対応では GitHub Actions でビルドが出来ませんでした。
なぜかというと、GitHub Actions の実行環境には CUDA 対応のビデオカードが入っていないため、CUDA Toolkit のインストーラを実行するとドライバのインストールでエラーになってしまうからです。
nvcc だけ取り出す
理論的には、nvcc コンパイラと cuda.lib と cuda.h さえあればビルドできるはずです。
いろいろ調べてみると、CUDA Toolkit のインストーラで local タイプ(全部入りのダウンロード)をダウンロードして unzip してやると、インストールするそれぞれのコンポーネントをそのまま見ることができることが分かりました。
この中に入っている nvcc
というディレクトリが欲しかったコンパイラです。
わざわざインストーラを実行しなくても、この nvcc ディレクトリを持ってきて利用すれば動くはずです。
CMake を修正する
CMake で enable_languages(CUDA)
をすると、自動で nvcc コンパイラを探してくれます。
じゃあどうやって探しているかというと、Windows では CUDA の Visual Studio Integration を使っています。
この CUDA の VS Integration は CUDA Toolkit のインストール時に選択してインストールするものですが、さっき書いたように GitHub Actions では CUDA Toolkit のインストーラは動きません。
そのため、GitHub Actions からの利用を考えた場合 enable_language(CUDA)
は使えません。
そこでどうするかというと、FindCUDA を利用します。
これは CUDA の言語サポートが実装されたため deprecated になっている機能ですが、これは VS Integration を見たりしないので安心して使えます。
以下のように利用します。
# nvcc コンパイラの配置場所を設定する
set(CUDA_TOOLKIT_ROOT_DIR ${CMAKE_CURRENT_SOURCE_DIR}/_install/cuda/nvcc)
# FindCUDA を利用する
find_package(CUDA REQUIRED)
set_source_files_properties(
NvCodec/NvCodec/NvDecoder/NvDecoder.cpp
src/hwenc_nvcodec/nvcodec_video_decoder_cuda.cpp
PROPERTIES
CUDA_SOURCE_PROPERTY_FORMAT OBJ
)
cuda_compile(CUDA_FILES
NvCodec/NvCodec/NvDecoder/NvDecoder.cpp
src/hwenc_nvcodec/nvcodec_video_decoder_cuda.cpp
OPTIONS
# Visual Studio C++ コンパイラに渡す追加のコンパイラオプション
-Xcompiler /utf-8
-Xcompiler /I${CMAKE_CURRENT_SOURCE_DIR}/NvCodec/include
-Xcompiler /I${CMAKE_CURRENT_SOURCE_DIR}/NvCodec/NvCodec
)
target_sources(SoraUnitySdk PRIVATE ${CUDA_FILES})
これに加えて GitHub Actions のキャッシュ機構も利用して、毎回 2.5 GB ある CUDA Toolkit インストーラをダウンロードしてしまうことが無いようにしました。
こうすることで、無事 CUDA のインストールできない環境、つまり GitHub Actions でもビルド出来るようになりました。
感想
見て分かる通り、デコーダの実装はすぐに終わったのですが、ビルド環境の整備で苦労しました。
GitHub Actions 対応は、CUDA Toolkit がインストールできない時点で諦めようかと思っていたんですが、何とか動かせて良かったです。
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