Metaの新型VRグラス発表を聞いた夜、私はリビングでQuestを装着し、Amblyotubeを起動していた
Road to VRの記事で「Meta VR Glasses、Project Phoenix、1,300ドル、2027年春」という見出しを見た時、正直ワクワクした。軽量グラスタイプ、コンピュートパックとテザリング、日常使いできるフォームファクター。VR/AR業界が目指してきた方向性が、ついに具体的な製品として見えてきた。
でも、その記事を読みながら、私はふと思い出した。
三年前の冬、眼科の診察室で「弱視ですね、パッチングを続けてください」と言われた日。白衣の医師の声が、妙に遠くに聞こえた。三十代半ばで、今さら。パッチング——アイパッチを一日数時間、優位眼に貼り続ける治療法。子供ならまだしも、大人になってからの効果は限定的だと聞いていた。
会社のトイレでアイパッチを外し、鏡を見てため息をついた夜のこと。便所の蛍光灯が、左右非対称の顔を白々と照らす。同僚の視線を気にしながら会議に出席した午後。資料の文字が二重に見えるわけじゃない。ただ、奥行きが感じられない。プレゼンのポインターが、スクリーンの上を滑っているのか、手前に浮いているのか、一瞬で判別できない焦り。
立体視が弱いせいで、駅の階段の段差を踏み外しそうになった朝。手すりを強く握りしめ、膝が笑った。周囲の通勤客は颯爽と駆け下りていく。私だけが、世界を平面として生きているような気がした。
治療法はあるのに、継続するのがあまりに辛かった。アイパッチは蒸れる。視界が半分になる不安。何より、大人になってから「治療」を日常に組み込む生活の重さ。
そこで出会ったのがAmblyotube(アンブリオチューブ)だった。Seven Sportsが開発したMeta Quest向けアプリケーション。最初は半信半疑だった。VRで視覚トレーニング? ゲーム感覚で弱視が治るなんて、怪しすぎる。
でも、最大の特徴を読んで、少し考えが変わった。左右の目にそれぞれ異なる映像を提示しながら、YouTubeのような感覚で動画コンテンツを視聴できる。「不同視映像提示(dichoptic presentation)」と呼ばれる手法は、弱視治療や視覚協調トレーニングの分野で研究されてきたアプローチだという。従来のトレーニングが単調になりがちだったのに対し、エンターテインメントコンテンツを通じて自然に継続できるよう設計されている。
具体的には、いくつかの工夫が重なっていると知った。
優位眼(ドミナントアイ)側には「Dominant Eye Shader」でデジタル遮閉をかけられる。ブラー、コントラスト、明度、不透明度を調整可能で、完全遮閉にもできるが、目的は部分的なシェーディングで両目を活性化させることにある。弱視側には「Lazy Eye Sharpener(MFBF)」が働き、AI駆動の人物検出で人間の姿だけをシャープ化する。さらに「Flicker Stimulation」で人物に微細なフリッカーを加え、視覚系の運動検出回路を刺激する。
「Magenta Focus Cue」では、マゼンタ色の円形キューが弱視側だけに動き、優位眼側には柔らかなグレーのキューが表示される。マゼンタは自然界の動画にほぼ現れない色であり、背景に埋もれにくい。最近のアップデートで追加された「Visual Accents」は、ハイライト(黄緑グロー)、アウトライン(赤シルエット)を人物に重ね、さらにそれを「呼吸するリズム(Hz)」でパルスさせられる。注意を維持し、弱視側がターゲットをロックオンしやすくする工夫だ。
これら全てが、動画再生と同期してリアルタイムに動作する。
最初のセッション、私は料理動画を選んだ。包丁で野菜を切る手元、フライパンで炒める油の跳ね、盛り付ける指先。Questのヘッドセットを被り、コントローラーを握りしめ、再生ボタンを押す。弱視側だけシャープに、マゼンタの丸が滑らかに動き、赤い輪郭がふわっと呼吸する。
最初の十分は違和感しかなかった。左右で見え方が違う映像に、脳が拒絶反応を示す。頭痛がして、ヘッドセットを外したくなった。トイレで水を飲み、鏡を見た。また、あの顔だ。でも、続けてみようと思った。三十分だけ。三十分なら、ドラマ一本分だ。
二十分過ぎた頃、不思議な感覚が訪れた。
画面の中の包丁が、平面の映像から「手前に飛び出してくる」感覚。脳が両目の映像を融合し始めた瞬間だった。油の跳ね一つひとつが、立体的に見える。フライパンの縁が、奥行きを持って見える。思わず息を呑んだ。
以来、週三回、三十から四十分のセッションを半年続けた。
旅動画で、知らない街の路地裏を歩く。猫動画で、毛並み一本一本が浮き立つ。音楽ライブで、ギタリストの指先が弦を弾く瞬間の奥行き。ドキュメンタリーで、語り手の瞳の奥の光まで見える気がする。
見たい動画を見ながら、気づけば視覚協調とアテンション(注意機能)が鍛えられていた。
先月の検診で、医師がカルテを見ながら「立体視、改善してますね」と言った時、私は椅子の背もたれに深く沈み込んだ。声が震えた。医師は特に驚いた様子もなく、次の患者の準備を始めた。でも、私にとっては、三年間の重荷が一つ降りた瞬間だった。
帰り道、駅の階段を降りながら、手すりの奥行き、人の流れの立体感、看板の文字の浮き上がり。世界が、初めて「厚み」を持って見えた。雨上がりのアスファルトに映るネオンさえ、層になって見える。
次世代VRグラスの登場を心待ちにしつつ、私は思う。
待つことも一つの戦略だ。軽量で、日常使いできるデバイスが出れば、継続のハードルはさらに下がるだろう。でも、今すぐ始められるツールがあるなら、それを活用しない手はない。特に弱視の改善には早期介入と継続が鍵と言われる。
AmblyotubeはMeta Questストアで入手可能だ。
https://www.meta.com/en-gb/experiences/amblyotube/25906906972338493/
あなたの視覚機能は、次世代ハードウェアの発売を待ってくれない。今日から始められるケア、ここにある。
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